よくある誤解-大回り乗車は不正乗車!?
「大回り乗車って不正乗車じゃないの!?」
鉄道にあまり詳しくない方とお話すると、必ずといっていいほど言われます。
不正乗車だとか、キセルだとか、とにかく違法なニュアンスの言葉を浴びせられます。
では、なぜ大回り乗車は不正ではないと言えるのでしょうか。
大回り乗車の考え方を、ごくシンプルに説明します。
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大回り乗車の超基本の考え方-大阪環状線と山手線の例
例えば、大阪環状線で大阪駅から隣の天満駅に一駅だけ乗る場合。
1区間130円ですが、あえて反対方向に、西九条→天王寺→京橋→天満の順に回ったとしても、130円でOKです。
同様に、山手線で東京から一駅となりの有楽町まで乗る場合。
1区間140円ですが、あえて逆回りに日暮里→池袋→新宿→品川→有楽町の順に乗車しても、140円でOKです。
何もおかしなことは言ってません。これはルール上、許されている乗り方なんです。
あなたは今までに、駅の改札を出るときに「どういうルートで乗って来られましたか?」と駅員さんに聞かれたことがありますか?
まず、聞かれたことはないと思います。
黙ってるから気づかれないだけ、という風に思われるかもしれないですが、そういうことではございません。
さらにエリアを拡大してみよう
環状になっている路線は、大阪環状線や山手線だけではありません。
琵琶湖をぐるっとまわる環状区間を見てみましょう。
例えば、山科からお隣の大津まで行くとします。
山科から、あえて湖西線に乗車して近江塩津、米原、草津経由で大津まで行ったとしても、一駅の運賃でOKです。
もうひとつ例を挙げます。
尼崎からお隣の塚口へ行く場合。加古川、谷川経由で塚口へ行っても1区間の運賃でOKです。
この理屈で、もっと範囲を広げていくと、新大阪→東淀川のきっぷで赤線のような大回り乗車をしても問題ない、ということになります▼
※大回り乗車ができるエリアは決まっています。JRのどの路線でもできるわけではありません。
大回り乗車ができる根拠があります
「そもそも、なぜこんなことができるのか?」という根拠は、JRの旅客営業規則の中に書いてあります。
旅客営業規則 第157条2項、選択乗車と呼ばれる項目です。
『大都市近郊区間内相互発着の普通乗車券及び普通回数乗車券を所持する旅客は、その区間内においては、その乗車券の券面に表示された経路にかかわらず、同区間内の他の経路を選択して乗車することができる。』
文面だけ見ても「なんのこっちゃ?」という感じですが…。
簡単にまとめると、東京や大阪のように、目的地まで複数の経路が選べる地域では、どの経路で乗っても、一番安い最短経路の運賃でいいですよ、という意味です。
「距離は遠回りだけれど、こっちから行くほうが電車の本数が多いから早く着ける。」という場合があります。
実際の乗車経路で運賃計算するルールだと、経路ごとの運賃表をつくったり、乗車経路を記録したりしなければならず、大変な手間がかかります。
路線網が入り組んでいる大都市部では、経路別の運賃精算は現実的に不可能です。
そこで運賃計算を簡便化するため、特定のエリアの中であれば実際の乗車経路に関係なく、最短経路を乗ったとみなして、その運賃を適用することになっているのです。
「大回り乗車」はJRの業務用語?
鉄道ファンに「大回り乗車」と言えば当たり前に通じる言葉ですが、その語源はどこにあるのでしょうか。
ここで簡単なクイズを出題します。
「大回り乗車」という名称は、国鉄時代からの業務用語であり、JRの旅客営業規則に記載されている。〇か×か?
あなたはどちらだと思いますか?
■ ■ ■
■ ■
■
大回り乗車という業務用語はございません。
答えは、×です。
大回り乗車という言葉は、鉄道ファンが名付けた俗称です。
おそらく、こういう制度が出来たときに、「これ、わざと大回りできるんじゃないのか!?」ということに気づいた鉄道ファンがいたのでしょう。
最初のころは、遠回りとか大回りとか、言ってたんだと思いますが、だんだん「大回り乗車」という言葉が定着して、今に至っています。
JR職員は大回り乗車を知らない?
逆に言うと、JRの職員が「大回り乗車」という単語を知らなくても、別におかしくはありません。
だって、そんな業務用語がないんですから!
JR職員といえども、根っからの鉄道ファンばかりではないですし、たまたま就職先として魅力的だったから鉄道マンになった人もいるはずです。
そういう人に、「大回り乗車してきました」と言っても、もしかしたら通じない可能性があります。
手厳しい鉄道ファンは、大回り乗車のことを知らないJR職員がいたら「勉強不足だ!」と糾弾するかもしれませんが、それはちょっと言い過ぎじゃないかなーという気がいたします。
とはいえ、大回り乗車という言葉は知らなくても、JR職員なら選択乗車の条文は理解されているはずです。
運悪く、大回り乗車(選択乗車)の考え方をまったく理解していないJR職員に遭遇したら、旅客営業規則を示すなどして合法であることを主張しましょう。
大回り乗車の公式ルールは存在しない
大回り乗車は、鉄道ファンが見つけ出した特殊な乗り方です。
もっと言えば、「大回り乗車のJR公式ルール」は存在しません。
そりゃそうですよね。大回り乗車という業務用語が存在しないんですから。
じゃあ、何でできるのかと言うと、旅客営業規則の選択乗車の条文を拡大解釈することで成り立っています。
運賃計算を簡略化するために、最短経路の運賃でいいですよと言ってるのを、「わざと遠回りしても同じルールだよね。」と解釈しているわけです。
ちょっと屁理屈っぽいんですけど、規則上は成立するということです。
そして、大回り乗車が長年にわたって定着し、既成事実化しているという状態です。
大回り乗車はグレー乗車
大回り乗車は規則の盲点をついた乗り方です。
何度も説明しているように、あくまでも、運賃計算を簡略化して駅員さんの負担を軽減したり、乗客がきっぷの運賃を調べる手間を省く目的で制定されたルールなのに、
「わざと遠回りしてもいいですよね?」
と言ってるわけですから、JR(旧国鉄)としては想定外の、規則の盲点を突いた乗り方といえます。
そういうことですので、「ルール違反ではないけれど、推奨されるものでもない」という風に筆者は考えます。
大回り乗車を推奨する記事を書いている私が偉そうなことは言えませんが…。
大回り乗車は招かれざる客
JR側からみたら、大回り乗車の乗客は「招かれざる客」です。
JRは、お客さんが乗った距離に応じて運賃を払ってもらって収益を得るというビジネスモデルです。
それなのに、
「あんな長距離を乗って、130円とか140円って、おかしいだろ!?」
「これじゃあ商売が成り立たないよ!」
とJR職員が思ったとしても、それが当然だろうと同情します。
どうしてJRは大回り乗車を規制しないのか
「大回り乗車、許すまじ!」
というのであれば、旅客営業規則を変更して明確に大回り乗車を制限すればいいと思うのですが、これまでのところ、規制強化の動きはありません。
筆者の個人的見解ですが、おそらく、わざわざ規制強化するよりも全体最適を考えているのではないでしょうか。
実際に大回り乗車する人が全乗客の何パーセントいるのかと言うと、非常に微々たるものだと思います。
そんなレアケースのために規制強化して、駅員や乗客に対して周知徹底したり、新しいルールで不正がないかチェックしたりしてたら、業務負担が増えてしまいます。
なので、「そういう手間を考えれば、今のままでとりあえずいいんじゃないの?」という感じで、あえて見て見ぬふりをしてるんじゃないか、と私は考えます。
ということで、JRからしたら迷惑な客だということを自覚したうえで、
「大回り乗車させていただいてありがとうございます」
という感謝の心で利用しましょう。
大回り乗車中に職務質問されたらどうする?
大回り乗車をしている時に、車掌や駅員から「きっぷを拝見します」というような職務質問をされることがあります。
そんなときは、きっぷと旅程表(乗車コースが一目でわかる地図や時刻表)を見せて「大回り乗車しています」とひとこと答えれば、「あーそうですか」で済みますので、何も心配ございません。
ただし、当たり前ですが、見せた旅程表の内容が間違ってたらダメです。
大回り乗車のルールからはみ出すような乗り方をされていたら、車掌、駅員は見過ごすわけにいきませんから、
「正規運賃を払ってください。」
と言われることでしょう。大回り乗車のルールをきちんと理解した上で、間違いのないようにして実行してください。
大回り乗車の旅程表(コース図)サンプル
大回り乗車をする際は、このような旅程表を記入して持ち歩きましょう。
白地図に乗車コースをマーカーでなぞって、駅員に見せるというやり方が一番スマートで伝えやすいと思います。
筆者は今までに何十回も大回り乗車をしていますが、このやり方で車掌さんや駅員さんに説明してきたので、トラブルになったことはありません。
【まとめ】大回り乗車は不正乗車ではありません
大回り乗車は、初乗り運賃で長距離旅行ができるという、一見すると非常識な乗り方ですが、JRの旅客営業規則に照らして合法的な乗車方法です。
不正乗車ではございませんので、安心して旅を楽しんでください。
動画解説「初乗り運賃で旅行できるって本当!?」
動画を視聴できる方は、YouTubeでご覧ください▼
ここまでで、大回り乗車は違法ではないことをご理解いただけたと思います。
次のページでは、実際に大回り乗車をするときに守るべきルールを解説します。